髪の毛って何だろう?
人々にとって髪の毛は大切な存在です。
現在ではファッションの一環として、髪型が大きな役割を持っています。
髪を染める技術が発達して以来、その多様性は一気に増したと言えるでしょう。
人が人を認知する上で、髪のようすは最もよく目につくのです。
中世ならば、身分や役割を示す目的で、髪型は重要でした。
剃髪した僧侶(無毛は髪型において最も認知しやすく区別しやすい)は社会で特殊な役割を持っていました。
世界中の多くの文明で、戦士階級は特徴的な髪型を選んでいる点も同様です。
いずれも、一目見て判別できる点が重要です。
いつの時代であっても、社会性を持つ人間にとって髪型が大切なのは変わりありません。
ここまでは髪型の話。
ここからは、そんな頭髪をなぜ私たちが生やしているかについて、生物としての観点に絞って見てみることにします。
前提として、生物の肉体の構造にはそのすべてに何らかの役割があります。
不要な構造は退化しており、既に洗練されていると考えてよいでしょう。
爪や髪の毛といった構造は、通常の肉体と異なり特徴的ですね。
どちらも定期的に切って捨てていきます。
では、人々の頭髪は何のためにあるのか?
「頭部を守るため?」
というのも適切な答えです。
生物にとって頭部はとても重要です。どうにかして保護しなければなりません。
そこで、線状の、一定の硬度を持つ、柔軟性に富んだ素材である頭髪を10万本ほど頭に用意し、層が構成されるように生やしています。
これにより、ほどほどの防御力と、日照や雨水を遮る構造が頭部にできます。
頭部の他に、顎のように、損傷しやすい張り出した部位にも毛が生えます。
頭髪は頭部を、眉やまつ毛は目を、鼻毛は呼吸器を保護します。
物理的保護が一つの目的であるのは間違いないでしょう。
しかし、頭部保護だけが髪の目的ならば、髪の毛が抜けて生え変わるような性質も必要ありません。
もっと強度のある素材を使い、頭蓋骨をさらに外側へと発達させて、その生命の一生涯、頭部を覆うような構造にしてしまえば、老いとともに防御力が減少することもなく、より強固に脳を守ることができるはずです。
ではなぜ頭部の防御機構が、毛髪のように生え変わる性質になっているのか…?
それには、生命体を構成する材料の制約が大きく関与しています。
生命体の構造を支配している大きな制約とは、肉体が外部に接している部分「体の表面」は、どうしても、常に作り替えなければならないという点です。
外に接しているため、すこしずつ消耗してしまうからです。消耗した分を新しく作り、更新し続けなければならないのです。
頭部防御の構造もその制約から免れることはなく、損傷を受けても常に作り替えることのできる素材で構成する必要がありました。
そこで、「4か月程度の寿命を持つ毛をたくさん生やす」という選択をしたようです。
よって、古くなった毛は抜け落ち、新しい毛が生えてくるようになっています。
これを繰り返すことで、ある程度の防御は実現できるということです。
さらに生命の神秘は、廃棄されていく運命にある髪の毛に、もう一つの極めて重要な役割を持たせます。
どうせ毛髪を捨てていくならば、いっそ、不要な物質をそこに集めてしまえばいい…
頭皮の下の毛母細胞は、血液中から水銀やヒ素や重金属を引き付けて髪を生産します。
肉体に取り込んでしまったヒ素や水銀といった廃棄物を、髪の毛を作るときに一緒に押し込んでいるのです。
有害な廃棄物を取り込んでできた髪の毛は、頭部を保護しながら伸び続け、やがて擦り切れ、肉体から抜け落ちていく。
人々は散髪で髪型を整えつつ、毒素の排出もしているということです。
髪は複数の役割を同時に達成しています。巧妙ですね。