毛髪。
細くて軽い存在ですが、毛髪を構成するタンパク質はケラチン。
動物の角や爪と同じ成分です。繊細に見えて、実は主成分自体がそこそこ硬いということになります。
毛髪の硬度は、同じ太さの銅線の硬度に匹敵すると言われています。
銅の硬度は、モース硬度でいうと、2.5~3。コインで削ってようやく傷が付くレベルです。
美容・理容業界で使われるハサミは、そんなに硬いものを、日々、大量に、切っているわけですね。
ハサミに使用されている合金は銅よりもだいぶ固いです。
それも、素材の進化とともに丈夫さを増してきました。
しかし、その刃先は微細な刃付けがなされていて、薄くなっています。その点は、いかに素材が丈夫であっても変わりありません。
ハサミの刃先は、使用者がカットの動作をするたびに、毛髪の抵抗力と戦います。
一日に何度も何度もそれを繰り返します。
たとえハサミの素材が、切る対象より硬くて丈夫であったとしても、やはり繊細な刃先は傷んで変形していきます。
普通に見ただけでは視認できませんが、銅線並みに硬い物を切りつづけるうちに、丸くなったり、めくれたり、ギザギザになったりします。
一度歪み始めた部分は、さらなる歪みを呼びます。
負の連鎖です。
それゆえに、一定の期間で歪みをリセットするはたらきが必要になります。あらゆる歪みを取り除き、再生する「研ぎ」が必要になるわけです。